紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  「害虫防除の常識」    (目次へ)

    2.有害生物(害虫)管理にあたって守るべき事柄

     8) 遺伝子組換え作物の輸入と栽培を規制する「カルタヘナ法」とのかかわり

 世界における遺伝子組換え作物の栽培の現状

 1995年に米国で遺伝子組換え作物が最初に商業ベースで栽培された。これまでに商業栽培されてきた主なものは、Btトキシンという殺虫性のタンパク質を作物の体内で発現させたトウモロコシ、ワタ、ジャガイモである。これらを栽培すると、トウモロコシのアワノメイガや根を食害するハムシ類、ワタのオオタバコガ、ジャガイモのコロラドハムシなどの主要害虫の薬剤防除が不要となる。もう1つは、ラウンドアップという除草剤に耐性の遺伝子を作物に入れて体内で発現させたトウモロコシ、ダイズ、ナタネなどである。ラウンドアップ耐性遺伝子組換え作物は、作物畑に雑草が生えていても、適切な時期に1回この除草剤を散布すると、雑草だけが枯れてしまい、その後は作物が生い茂って雑草の生育を抑制する。このような雑草管理法によって、従来よりも除草作業が大幅に軽減され、除草のための耕耘に起因する土壌流亡が少なくなるというメリットもある。

 大規模機械化農業を営む米国では、上記のような遺伝子組換え作物を栽培することによる農業生産者のメリットが大きいので、遺伝子組換え作物の栽培が急速に普及した。米国のみならず、2006年には世界22カ国で栽培され、全世界の遺伝子組換え作物の栽培面積は前年よりも13%増加し、1億200万ha(日本の国土の3倍)となった(国際アグリバイオ事業団HP)。

 生物多様性条約に基づくカルタヘナ議定書とは?

 生物多様性条約は、1992年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)で採択された国際条約であり、生物多様性が人類に多大な恩恵をもたらしているとの認識から、生物多様性の保全を条約の重要な目的の1つとしている。本条約では、遺伝子組換え生物が自国の生物多様性を損なうおそれがある場合には、これを規制、管理、制御するための方法を検討する必要があることを定めている。

 このような生物多様性条約の規定を受け、遺伝子組換え生物による生物多様性の保全と持続的利用への悪影響を回避し、または最小にするために、1999年に南米コロンビアのカルタヘナで開催された締約国会議で「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(以下、カルタヘナ議定書と略す)」が検討され、翌2000年にカナダのモントリオールでの締約国会議で採択された。

 カルタヘナ議定書では、特に、遺伝子組換え生物等が国境を越えて移動(輸出入)される場合に、輸出国あるいは輸出業者は事前に遺伝子組換え生物に関する情報を輸入国に提供し、輸入国は自国の生物多様性に影響が生じないように危険性の評価を行い、輸入の可否を決定することができることなどが定められた。

 カルタヘナ議定書に基づいて国内法(カルタヘナ法)が制定、施行された

 わが国は、2003年に「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」を締結し、翌2004年に「議定書」が発効した。これに併せて、国内で遺伝子組換え生物の使用等の規制に関する措置を講ずるための法律である「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(以下、カルタヘナ法と略す)が制定され、2004年2月に施行された。

 カルタヘナ法によって、海外から輸入される遺伝子組換え生物や国内で作出された遺伝子組換え生物の使用が規制されるようになった。

 遺伝子組換え作物の人と生物多様性(生態系)に対する安全性をチェックする仕組みは?

 
 「カルタヘナ法」に基づいて、遺伝子組換え作物の輸入や国内栽培に先立って、わが国における生物多様性や生態系への影響が評価されることになった。遺伝子組換え作物を作出するための実験室段階での使用(第2種使用という)は、屋外への拡散を防止するために、閉鎖環境下の施設内での使用に限定される。ここでの試験や作出された遺伝子組換え作物の危険性については、学識経験者等による専門委員会で申請者(輸入業者や開発者)から提出されたデータに基づき審査される。

 次に、一般圃場での栽培や、食品原料として輸入させることの可否を決めるための隔離圃場段階での試験(第1種使用という)については、試験の安全性の確保が事前に審査され、また、試験結果等に基づく生物多様性への影響が事後に専門委員会で審査される。

 遺伝子組換え作物は、生物多様性への影響評価試験の結果に基づき主務大臣の承認を受けた後でなければ、国内栽培や輸入を行うことができない。

 一方、人への危険性については、食品衛生法に基づいて専門委員会で審査され、遺伝子組換え作物中に生産される物質や、もし副次的に生産される物質があればその危険性についても審査が行われる。また、主務大臣の承認を受けた遺伝子組換え食品でなければ製造、輸入、販売等をしてはならないことになっている(厚生労働省HP)。

 飼料用の遺伝子組換え作物についても、家畜の餌として与えた場合の危険性が審査され、主務大臣の承認を得たものでなければ輸入や国内栽培をすることはできない。

 わが国における遺伝子組み換え作物の承認の現状

 これまでに、国内栽培用の遺伝子組換え作物(花卉など非食用を含む)としては、平成15年年5月現在で14作物、74系統が承認されている。また、わが国には、家畜用飼料や油脂原料となる遺伝子組換えトウモロコシやダイズが大量に輸入されている。「カルタヘナ法」では、国境を越えて輸入される遺伝子組換え農作物が国内で栽培されない場合でも、生態系への影響を評価して、安全性を確認したものでなければ輸入できないとされている。加工用に輸入される遺伝子組換え作物が15作物107系統、飼料用の遺伝子組換え作物が5作物38系統(その他、審査不要のものも有り)について承認されている(農林水産省HP)。なお、同一作物・系統で、栽培用、加工用あるいは飼料用として重複して承認を受けているものが多数ある。

 しかし、上記のように国内栽培が承認されている遺伝子組換え作物は多数あるものの、現在までにわが国で商業的に栽培されたものはない。これは、(1)遺伝子組換え作物の花粉が近隣に栽培されている非組換え作物へ飛散して交雑しないように、十分な距離をとることが必要であること、(2)遺伝子組換え作物の販路が確保しにくいこと、(3)わが国のような小規模農業の場合には遺伝子組換え作物を栽培するメリットが大きくないことなどが挙げられる。さらに、(4)遺伝子組換え作物に反対する近隣住民や市民団体の声が大きく、農家がこれに抗してまで栽培するメリットと必要性を十分に感じていないためであろう。

 遺伝子組換え食品の表示はどうなっているのか?

 遺伝子組換え作物を原料とする食品の表示義務は「日本農林規格(JAS法)」によって定められている。表示の対象となっている食品は、ダイズ、トウモロコシ、バレイショ、ナタネ、綿実、テンサイ、アルファルファの7種類の農作物と、これらを原料として加工したもので、組み換えたDNA、あるいはこれによって生じたタンパク質が検出可能な32種類の加工食品群(とうふ、納豆、ポテトチップ等々)および高オレイン酸ダイズ、高リシントウモロコシとその加工食品である。

 さらに、これらの食品で遺伝子組換え農作物が原材料の全重量の5%以上、かつ原材料の上位3位以内の割合で含有されている場合に、その旨を表示する義務がある(以上、農林水産省HP)。

 なお、有機JAS表示の要件の1つとして、遺伝子組換え作物の種苗を用いて生産されたものでないことが挙げられている。 

□関連情報:法律関係は「バイオセ−フティクリアリングハウス(J-BCH)」のHPで参照できます。


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